研究者が百寿者を興味深く調べてみると、慢性炎症の程度が低く抑えられていました。
100歳を目前にして慢性炎症がどんどんと亢進する人は、残念なことに100歳の壁を乗り越えることができません。

老化に伴い免疫も老化します。免疫老化は慢性炎症であり、程度を違えてモザイクのように身体全体で生じます。
加齢関連疾患であるがんや高血圧、糖尿病、アルツハイマー病などの背景にはそもそも慢性炎症が存在します。

口腔はとても慢性炎症を抱えやすい部位であり、その影響は腸管をはじめ全身に及びます。

神経ー免疫ー内分泌コネクション

長寿エリートの鍵は抗炎症。

ところで免疫系は神経系や内分泌系と相互に繋がりを持っています。例えば自律神経の終末部では、免疫細胞に情報伝達しています。免疫細胞もサイトカインと言う情報伝達物質で脳を含め全身に情報を伝えています。神経が有線連絡ならサイトカインが無線連絡という具合です。あるいは閉経で女性ホルモンが低下すると炎症が亢進します。もちろん、内分泌臓器間での繋がりもあります。
例えば、精神的あるいは肉体的なストレスでは炎症が亢進し、コルチゾールの分泌が高まります。副腎が疲弊してもはやコルチゾールが十分に作れなくなってしまうと、バーンアウト(Burn out) で疲労の極致です。つまり、抗炎症を図るためには免疫系だけを見ているだけでは不十分です。イタズラに免疫強化と言って、鞭を打ちすぎて、かえって免疫細胞の疲弊を招いているようなことはありませんか?

うつ状態や不眠の背景には、慢性炎症や慢性ストレス、女性ホルモンの低下があるのかもしれません。
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口に潜む慢性炎症

耳の穴や鼻の穴、口など、そもそも体に開いた「穴」には、皮膚よりも数多くの微生物が住み着いています。口の中は唾液の殺菌成分もありますが、微生物にとって適温で、水分も栄養も食事の度に供給されて、歯などの岩陰のようなものもあり、きっと住み心地が良いところなのだと思われます。
細菌だらけの外部環境から内部環境である臓器や筋肉、骨などを守っているのが皮膚や粘膜です。口の中は粘膜で覆われていますが、歯が生えていて、つまり歯が粘膜を貫通しています。そこを内部環境に侵入しようとする細菌が狙って攻め込んでくるので、感染による炎症が起こりやすいのです。
また、唾液を飲む度、食事の度、話す度に顎を動かしていて、動きに不調があっても関節などに炎症が生じます。
タバコやアルコール、食事の内容によっては粘膜炎も生じます。
カビ菌やウイルス感染による炎症もしばしば見つかります。
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歯周組織の炎症ー歯周病

重度の歯周ポケット内面に存在する潰瘍の面積は、手のひら大です。それにもかかわらず、慢性炎症である歯周病は症状が少ないので放置しがちです。
令和4年の歯科疾患実態調査を見ても、加齢にしたがい歯周炎を持つ人の割合が増えています。一方、口腔衛生も普及して歯のクリーニングに歯科医院を受診する人が増加しているにもかかわらず、歯周炎を持つ人の割合が、55-64歳を除いた各年齢層で増加の一途でした。

このように多くの人々が、口の中に歯周病として巨大な慢性炎症を抱えています。
歯周病は今日までに、全身の臓器の疾患、例えば脳卒中、心筋梗塞、末梢動脈疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、リウマチ性関節炎、骨粗鬆症と関わりがあることが分かっています。

歯周病は、歯周病菌が直接歯周組織を破壊するのではなく、特定の歯周病菌やその毒素に対する宿主(
ヒト)自らの免疫応答により歯肉線維が断裂し、骨が壊れて進行します。この宿主の歯周病菌への免疫応答が病態の6割も7割も占めていて、歯周病菌そのものによるのはわずか3割です。
つまり、自ら歯周組織を壊しているので、ひたすら歯のクリーニングだけに時間を費やすのは考えものです。プロフェッショナルな歯のクリーニングだけを受けた方の歯周病再発率を調べたスペインの大学の研究でも、高確率で歯周病が再発しました。

以上より、どうせ通院していただくなら、歯周病菌そのものを排除することだけを提供するのではなく、自らの免疫応答のコントロール、つまり抗炎症のライフスタイルへのアドバイスに重点を置いた方が患者の方にとって利があるように考えられます。

炎症の多寡は遺伝により影響を受け、さらにストレスや食事、睡眠などライフスタイルも深く関わります。例えば愛知県の調査では、飲食宿泊業に従事する人で歯周病の人が多く見つかりました。

歯周病検査も色々ありますが、1つの提案として、現在住み着いている歯周病菌種を遺伝子検査で同定するだけではく、患者の炎症の起こりやすさも遺伝子検査で確認することは、リスクの評価として有用と考えます。精密に菌種を調べることで、歯周病の進行につれて菌の種類も大きく変化していくので、微生物学から見た歯周病のステージが判明します。また、炎症が起こりやすい体質であることが判れば、より一層抗炎症に取り組むことで、歯周病の進展が減速します。がんを始め、慢性炎症から継発する様々な疾患もあるので自らを知ることは予防医学的にも有用です。

ビタミンDは抗炎症作用があり免疫も調整するので、採血での検査で理想的な濃度に維持することは有効です。

中等度以上の歯周病では歯周外科処置が必要なことが多いですが、歯周組織再生療法は有用です。メンブランを使用するGTR法や豚歯胚由来のエムドゲインにはすでに30年以上の長い歴史があり、安全である事が証明されています。国内では再生医療法に区分されるPRFやPRP(共に当院届出済み)は、自らの血液を加工するので合併症はほぼありません。一方、線維芽細胞増殖因子の利用はまだ歴史が浅い上、線維芽細胞増殖因子は腫瘍を増殖させる危険があるので、当院では極めて慎重に提供しています。
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上顎洞の炎症ー歯性上顎洞炎

上あごの奥歯のむし歯に継発して歯根が感染を起こすと、鼻汁や鼻漏さえ伴う歯性上顎洞炎を生じることがあります。これも鼻が悪いからと放置して慢性化している人が多いように感じます。従来の歯科用エックス線撮影で左右の上顎洞の影の違いから見つかることもありますが、歯科用CT撮影ではより明確に上顎洞の状況を観察することができます。歯科での治療が中心になりますが、耳鼻科医との連携が必要になることもあります。
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従来のX線撮影では、赤い矢印側で歯の上方が反対側に比べてやや白く見えるが明瞭ではない。
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一方、同じ人の歯科用3次元CT撮影画像では上顎洞に不透過像が観察され、底の部分の骨欠損も明瞭に確認できた(自院撮影)。

顎関節の炎症ー顎関節症

顎の開閉時に動かす顎関節は左右の耳の前にあります。口を開けるとガクガクと音が鳴ったり、口が開かなくなったなど不調を訴える人がいます。その人たちの顎関節には炎症が生じていてます。それに伴い偏頭痛や顎の痛み、首の凝りなどの筋肉痛を感じる人もいます。多くは噛み合わせに問題があるので、噛んだ時の歯の痛みや噛みづらさを訴える人もいます。これを顎関節症(CMD)と呼んでいます。食事の度に痛みや不快感を感じると食べる量も減ってしまい、食事も楽しめず、肉体的にも精神的にも強いストレスです。唾液を飲み込む時も噛み合わせがズレるので、常にストレスを感じます。

この顎関節での炎症に伴うストレスは、求心性の神経で脳に伝わり、脳でも炎症が生じます(Neuroinflammation)。
慢性的なストレスに晒された脳内では、セロトニンやアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが崩れ、こころのあり方にも変化をきたし、自律神経も変調して、不安(Anxiety)、不眠(Insomnia)あるいはうつ状態(Depression)が生じることがあります。内分泌系や免疫系にも影響が及ぶので体調不良ともなり得ます。
また、顎関節の後方組織内を中耳に酸素や栄養を運ぶ血管が走行していて、重症例ではその血管が潰れて見られなくなるようなので、難聴にもかかわる事になります。ストレスや難聴は、認知症の原因です。

夜中の歯ぎしりやくいしばりなど(Bruxism)は、ストレスからとも言われています。なにぶん寝てる間の出来事なので自分で気づくことはむずかしいですが、起床時のこめかみ部の痛みは夜中の歯ぎしりなどが原因と思われます。
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顎関節症からのストレスがどの程度に人に影響を与えているかは、生体情報として心拍を記録したり、神経伝達物質を測定することで確認できる。

ストレス検査

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ストレスをグラフ化すると1日のストレス状況が理解しやすい。顎関節症では終日ストレス状態にあり、全く休まらないような重症例も経験した。常にストレス状態が継続すれば、他の疾患発症のリスクも高まる(海外研究機関送付)。

神経伝達物質検査

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同時にセロトニンやアドレナリンなどの神経伝達物質を測定する。気持ちを鎮めたり、昂らせる神経伝達物質の不均衡の具合が判明し、再び均衡を得るための食事内容やビタミン、天然物質などの選択に役立つ(海外検査機関送付)。

歯根部の炎症ー根端性歯周組織炎

むし歯が歯の神経部に到達すると、歯根の先端から周囲に細菌が広がるので化膿が生じます。このような感染した歯を抜かずに残す治療が根管治療です。感染した歯根を消毒して、再び細菌が繁殖しないように歯根管を樹脂で密封する治療です。しかし感染が著しいと、十分に治りきらないことがあります。あるいは長い年月のあいだに歯根が再び感染してしまうことがあります。左下のような歯肉に膿の吹き出し口ができてしまった場合、自覚症状はほとんど無いので放置しがちです。しかしエックス線写真では、右下のように歯根の先端に大きな炎症ができていて、たいてい驚くことになります。

とても小さな炎症なので安易に考えがちですが、ライム病などの慢性疾患も感染した歯根に潜むスピロヘータ病原体(ボレリア、borrelia burgdorferi )で引き起こされることが観察されていますので侮れません。
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顎骨内の炎症ーNICO

NICOは顎骨内の空洞で炎症を伴う脂肪塊が内容物です。ボーンキャビティーとも表現されています。
ところで歯科大学の講義ではNICOについて習うことはありません。なぜなら従来の診断機器では存在の確認が難しく、またNICOによる痛みが生じることも稀で自覚症状に欠けるため、疾病として認識されていないからです。しかし、NICOは慢性炎症の源であることが明らかです。近年の研究では、NICO中の脂肪塊からランテスと呼ばれる炎症性ケモカインが全身へ大量に放出されることが分かっています。ランテスはアレルギー、各種のがん、関節リウマチや神経変性疾患などの分野での研究が盛んです。たとえば乳がんは、ランテスによりがん細胞の増殖や転移が促進されます。歯科で乳がんの治療を行うことはありませんが、NICOを除去し顎骨由来のランテスを無くすことで、全身疾患の発症予防が期待されます。またNICOの除去で原因不明の不調が改善された症例も多数報告されています。

NICOは通常、歯を抜いた顎骨内に生じます。傷口が粘膜で覆われてすっかり治っているように見えても、骨が治り切らなければ炎症が残り続けます。特に親知らずの抜歯で継発します。骨の治癒は粘膜に比べて遅く相当な期間を要します。したがって親知らずを左右同時に抜くようなことはせず、一カ所ずつ十分な治癒期間を設けて、治癒能力が分散しないようにするのが賢明です。例えば骨の石灰化に必要なビタミンDの最低血中濃度もすでに判明しているので、栄養学的状態を整えるなど計画的に抜歯に臨むような慎重さが求められます。
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アルツハイマー型認知症の解明を目的に米国で行われたナンスタディ(Nun study)に伴う歯科調査

ナンスタディは、加齢関連疾患でもあるアルツハイマー病の発症の解明を目的にナン(修道女)を研究対象に選んで米国で行われた研究です。ナンの人たちが選ばれた理由は、規律正しく一様の生活を送る人たちだからです。起床や就寝の時間、食事を含め生活習慣が同じで、学校の先生をしていて高学歴で日記をつけるなど生活様式も同じだったので、将来のアルツハイマー発症の有無の違いがどこにあるのか観察しやすかったのです。

ところで、この研究に伴い、調査対象のナンの歯科診療録(カルテ)を集めて歯の状況を、歯科医師が調査しています。興味深いことですが、わずか数本の歯が残っていた人たちの方が歯が一本もない無歯顎の人たちよりもアルツハイマー病の発症が多かったのです。
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お口の感覚

1950年にペンフィールド博士は、脳における体性感覚野の分布状況を明らかにしました。口と手の感覚が大半を占めていました。

認知症の予防で指遊びや手指を使うことは広く知られています。
同様に口腔の感覚を維持することも極めて大切です。
表情筋をしっかりと動かして顔の表情を作り楽しくおしゃべりをする。おいしい食事をしっかり咬んで飲み込む。毎日実践してこそ認知症予防です。

もし歯を失って義歯での治療を選択した場合には、感覚に優れる義歯が良いと考えられます。
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アルツハイマー型認知症と歯科疾患

アルツハイマー病は長い年月をかけて脳に異常物質が蓄積して発症します。この異常物質が最初に蓄積する部位は、脳の青斑核 (LC) という部位です。

この青斑核のすぐ外側に三叉神経中脳路核 (V mes) が有り、お互いに連絡を取り合っています。
三叉神経は顔や口、歯や歯肉に広く分布する神経です。例えば歯の痛みは、痛みの刺激がこの三叉神経の神経線維を通って脳に情報が伝わることで異常が検知できます。

ところで、歯の周りには歯根膜と呼ばれる薄い靭帯があり歯と骨をつなげています。
この歯根膜内に神経の受容体があるのですが、ここからも神経線維が V mes まで伸びています。猫の観察ではV mesのうち20%が、猿では10-15%が歯根膜から伸びる神経線維で占められていました。

歯を抜くとこの神経線維が失われ、V mesの内部でも5日以内に変性して神経が消えていました。
また、歯周組織や歯の神経(歯髄)の損傷や感染で、V mesだけではなくLCまで悪影響が想像されています。

咀嚼筋にも受容体があり、こちらからもV mesまで神経線維が伸びています。
さらに咬んだ力の感覚はV mes に留まらず、前頭、視床、辺縁系など脳全体に伝わります。

咬むのを止めてしまうと、脳への血液の供給も悪くなります。
動物実験では、奥歯を抜歯すると12週後には、記憶に関わる脳の領域で明らかな変化が認められました。記憶領域の海馬というところで新しい神経細胞が減ってしまい記憶の低下がみられました。

咀嚼の障害で脳に異常物質も溜まり、広範な脳の炎症の引き金になるようです。

歯周病菌の中には、重症の歯周病を引き起こすレッドコンプレックスと呼ばれるグループの菌がいます。
P. gingivalis菌とアルツハイマー病に関わりがあるとされています。
T. denticola菌もアルツハイマー病に関わりがあり、三叉神経の神経線維内を這って脳の中に侵入していきます。実際、アルツハイマー病の方の脳でT.denticolaが見つかっています。ちなみにTはトレポネーマ菌のTで、T. pallidumは梅毒の病原菌です。
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神経に潜むウイルス

ウイルスの中には神経に好んで寄生するものがあります。

三叉神経に潜むHSV-1ウイルスは、しばしば口唇ヘルペス、唇にタダレをもたらします。
EBウイルスやCMVウイルスは、重度歯周病患者の歯周ポケットから検出されます。

顔面神経領域にもVZVによる帯状疱疹が現れます。

癌の原因にもなります。
口腔を含め内臓に広く分布する迷走神経に潜む場合は、例えば腸の機能も悪くなったりと全身の不調につながります。

三叉神経も顔面神経も迷走神経も脳神経と呼ばれ脳につながっています。上行すると脳炎であり、認知症の原因の1つとも言われています。

かなり多くの人で持続感染がありますが、ただちに命に危険が及ぶわけでもないので症状が治ると放置されがちです。
しかし、消失させづらいウイルスですが多少の年月をかけても消し去るように治療しています。
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491-0859 愛知県一宮市本町1丁目4-19
電話 0586 (72) 2351 電話は午前中にお願いします。

院長 歯科医師 瀧 昌弘
副院長 医師  瀧 友紀

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